YAYA

小説を書く用のブログです。いつか出発することを目標にしています。

ヴォーダン・ゲーム 前編

 サーカス列車の寄宿車両を大きなおもちゃのラッパの音が響き渡る。

「ほら!!みんな起きて起きて!次の世界に付く頃だよ!」

ミラーボール団長だ。吹いているのは小さな子供が遊ぶようなおもちゃのラッパだが、その音は耳を劈くほど大きくて騒がしい。団長は何故か片手に蜂の表紙の本を持っている。さっきまで読んでいたのだろうか。

 みんなが目を擦りながら部屋から出てくる中、団長は一段と厳しい目つきになって1番端っこの部屋の前に立った。

「起きろー!!マクタブ!!マクタブ・キャラウェイ!!」

 団員の中で誰よりも後に起きてきたのは全身タトゥーだらけのシャーマン、マクタブ・キャラウェイだった。マクタブはスイング楽隊の指揮者でもあり、精霊の力を使って演奏を盛り上げるそうだ。マクタブの楽隊は彼を信奉する者達が団員として共に行動している。

「まだ目覚めの時間じゃない。俺は俺のリズムを知っている。」

マクタブは不服そうにミラーボール団長を見て言った。ミラーボール団長は知らないとでも言うように口を尖らせる。

「そんなこと言ったって次の世界にはすぐついちゃうもんねーだ。」本当にこの人がこの列車でトップの存在なんて信じられない。団長と目を合わせないようにそーっと私が後ろを通り過ぎようとした時、がしっと強く腕を掴まれた。

「それに次のキミのステージにはヨリを出して欲しいんだよ!!」

はあー?なんでまたこの人は。マクタブが驚いて私を見て答える。「こいつの噂は聞いている。しかし霊的な耐性がないやつに俺のショーに参加させるわけには…。」

「大丈夫だよ。だってヨリだもん。ボクが見てみたいだけってのもあるけど。」

マクタブは「気が向いたらな。」と言うとまた寝室へ戻ろうとした。「あ!マクタブ様!!音合わせの時間です!」

楽隊の者達が彼を連れ戻そうとする。

 それにしても、「マクタブ。どこかで聞いたことある気がします。」何か遠い昔にこの言葉を聞いたり読んだりした記憶がある。ミラーボール団長の瞳がキラッと光った気がした。

「あれ?もしかして前から知り合いだったとか?」

「いや、名前なのか呪文なのかも忘れたんですが、確かとても素敵な意味があった気が…。」

 団長は私が何か思い出すことを期待してるような顔で待っていたが、私には何も思い出せなかった。

「と、ところで次に行く世界はどんな世界なんですか?」

 ミラーボール団長は口の端を上げて不敵な笑い方をする。

「それはね、運命の交差点。永遠に幸せになれる世界だよ。」

「永遠に、幸せに?」

「運命の交差点は無数に存在する。でもここよりも願い事が叶う場所はきっと存在しないね。」

そう言うとミラーボール団長は私に鍵を手渡してきた。爬虫類の模様と付いているキーホルダーは…?

「…カエル?」

「ヤモリとカエルだよ。」団長は手に持っている本をぱらぱらと捲っている。植物図鑑のような料理本のような本だった。聞いてもいないのに団長は私にこう言った。

「この本はまだ途中だから貸せないよ?」

電車が急停止する。団長は本から顔を上げると扉へ向かった。「今回はちゃんと場所を設定したんだからちゃんと駅に止まってるはず!」

 

 団長の後を追って電車を下りるとなんとそこは音も何もしない、でもサイケデリック幾何学模様がごてごてと辺りを覆う仮想空間の駅だった。この列車は銀河のサーカス列車と言っているが、団長が呼ぶ銀河や宇宙というものがそもそも実際学校で習った天体の集まりとは違いいつでもどこでもないそれぞれのパラレルワールドを繋ぐ通り道のことなのだ。

 これを上手いこと受け入れるにはかなり時間がかかったというか、ある日突然概念として認識してしまったのだ。こんな空間にいるなんてもしかしたら私はもう死んでしまったのかもしれない。

 すると私の足元に耳の大きなピンクの象が擦り寄ってきた。「パレット!」

この象にはパレットという名前をつけて可愛がっていた。ミラーボール団長が急に耳の後ろを触っていた。

「何、ですか?」

「脈が動いている。キミは生きているよ。」

そう言ったミラーボール団長の手は手袋をしていてよくわからなかった。列車の車体の本物の方のミラーボールの柄が孔雀に変わっている。

 駅には「EXIT」と表示された扉があり、一人一人そこから渡された鍵を使って外に出る。なんてアナログなやり方なんだろう。

「出口はいつでもどこにでも無数に存在する。ただどのタイミングでどのように出るかは上手く利用しなくちゃね。」

団長は訳のわからない話をしながらみんなを見送ると1番最後にドアを出た。

 


 ドアから出るとそこは、熱帯の林の中だった。見慣れない木々や植物が密集しており知らない動物の鳴き声が聞こえる。

「うげっ。歩きにくそー。」天使の歌声を持つミカ・ハーゲンが顔を顰める。

「髪の質も変わっちゃいそうだしネ。いざとなったら動物でも捕まえて食べちゃう?」ナイフ投げの巡ちゃんが言った。

「この気候ならヘビ達には丁度良い。」ヘビ使いのマージャ・フォッシーがヘビを連れ出す。

「タバコは美味く感じるな。もしかしていい葉があんのかもな。」小人のトムが葉巻に火をつけた。確かに私が元々いた世界よりは新鮮で興奮する体験ではあるが、どこが永遠に幸せになれる世界なんだろう。

 それにさっきからずっと、

「誰かに見られてる感じだ。それも1人じゃない。かなりたくさんの。」マクタブが口を開いた。

 ミラーボール団長がニヤっと笑う。

「さすが、ボクの団員達はカンがいいね。じゃあ早速声をかけてみようか。おーい!こんにちはー!!」

茂みから恐る恐る顔を出してきたのは、

 まだ10歳にも満たない少年だった。大きな目を光らせていて、ジャングルでも暮らせるような裸に近い衣装と顔にも骸骨みたいなメイクをしている。ミラーボール団長は少年の目の高さにまでしゃがんで聞いた。

「この近くに永遠に幸せになれる国があるんだよね?」

少年はこくこくと頷いた。

 


 こうして我々が辿り着いたのはジャングルの中の開けた場所だった。木でできたお面や骨でできた人形、色とりどりの布で纏った衣装をきた部族達が待っていた。だけどなんだこの異様な空気は…?

 特にミカやトムといった身体的に目立つ団員への視線には異様なものがあった。それに何だかこの村は臭いが変だ。嗅いだことがないけど、まるで…。

 すると「サムディ、お客さんですか?」透き通った女性の声がした。私達を案内していた少年はサムディというらしい。声がする方をみると、足まで伸びる翠色の髪に黒い民族衣装を着た女性が立っていた。すごく綺麗な人だ。

 他の部族の人達とは違い白い肌をしている。こんな環境で日に焼けないのだろうか。それに、あの頭。釘が刺さっているのか?単なる髪飾りにも見えるが2本の角のようだ。

 サムディと呼ばれた少年は何も話さず頷くと何か女性の耳元で言い、遠くに行ってしまった。

 女性は穏やかな笑みを讃えると言った。

「はじめまして。私はこの部族を取りまとめるシャーマンのレグバ・ウコンディです。それで、貴方方もゲームをしにきたの?」

マクタブの顔色が変わった気がした。ミラーボール団長は以前ハメキト王にした時と同じようなどこか人を喰ったような態度で話し始める。

「ゲーム?何それ。ボクはサーカスをやりたいだけだよ。」

「サーカス?ああ、他の部族のお祭りを見せてくれるってわけね。言っておきますがこの部族にはそんなもの必要ないくらいみんな永遠に幸せに暮らしていますよ。」

レグバさんは団長の態度にも動じないで穏やかに言い放つ。しかしミラーボール団長も負けていない。

「銀河一ミラクルなサーカスだから大丈夫!それに、そのゲームの答えって…。」団長はレグバさんに2、3歩近づくと耳元で何か言った。「………だろ?」

レグバさんは驚いて団長を見、それからサーカスの団員を見ると、なるほどといった顔をした。

「分かりました。あなた達は特例のスピリットを持っているのでしょう。あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ私がいるように…。」

 すると、部族の中から2人組の男が走ってきた。「レグバ姫!新たな者がやってきました!」

そう言って連れられてきたのはここよりもっと遠い部族からやってきたという男だった。

「やっと、やっと見つけました!ここに来れば永遠に幸せに暮らせる、痛みも悲しみもないと!ここには俺を馬鹿にするヤツなんて1人もいない!!」

レグバ姫は頷くと男に近寄って答えた。

「そう。ここにいれば永遠に幸せに、どんな願いも叶いながら暮らすことができます。ただしその為には、ゲームに参加してもらわなければいけません。さあ、」

男が顔を上げるとレグバ姫は優しく手を取った。

ヴォーダン・ゲームを始めましょう?」
 

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