YAYA

小説を書く用のブログです。いつか出発することを目標にしています。

特別プログラム2 firework of titan

 赤や青の花火がサーカス小屋の真上を鮮やかに彩る。全てのショーがクライマックスに達した合図だ。観客はその日の感動の終止符として花火を見上げ、思い出を噛み締める。

 サーカスの団長、ミラーボールは円形のステージの真ん中に立つと、シルクハットを脱いで頭を下げた。

「みんな今日は来てくれてありがとう!!生きている限り、世界はずっとサーカスさ!!」

子供達はがやがやと出口に向かうが、外にいた人物を見つけるとわっと駆け寄っていった。

「わー!!おっきーい!!」

「さっきも出てた人だー!!」

何かと思って、私がテントの外を見ると身長2mはありそうな大男を子供たちが囲んでいた。

「花火師のシーリーコート・A・アイビス。かつては文明一つを破壊してしまうほどの爆弾魔だった。」

いつの間にこちらに戻ってきたのか、パフォーマンスを終えた人形師のグーが説明した。

「文明一つって、一体いつの時代の話なんです?」

「さあ。このサーカスの列車が移動する場所は時間も世界線も全然違うらしいから。ただ、長くこの列車に乗っているという点では古い友人の一人さ。」

グーはそう言うと、テント小屋の前にあったおもちゃ屋の屋台を片付け始めた。そして言った。

「明日はやつの手伝いらしいから、何か学べることがあるといいね。ヨリ。」

つまり、明日の私の特別プログラムとはあの巨人との仕事ってことだ。

 シーリーコート・A・アイビスは近くで見ると想像の倍以上の背の高さだった。その辺りの電柱と対して変わらないかもしれない。そんな見た目から気難しい性格を想像していたが、実際はかなり物腰が柔らかく気弱な性格だった。

「は、はじめまして…。僕に何か教えられることなんてあるかなあ、と昨日から考えてはいたのですが、よくわからなくて。聞きたいことがあればなんでも質問してくださいね。」

本当にこの人が一つの文明を壊滅させるほどの爆弾魔だったのか。なかなか想像がつかない。

「とりあえず名前はなんて呼んだらいいですか?」

「うーん、シーリーコートからシーリーとか、苗字のアイビスと呼ぶ人もいますね。」

「じゃあ、コートさんって呼びます!」

アイビスさんはにっこりと頷いて笑った。「うん。よろしくね、ヨリさん。」

なんだか見た目とは逆に子犬のような笑い方をする人だなと感じた。

 

 コートさんは花火小屋と呼ばれるテントに私を連れて行った。中には大量の丸い火薬球が並べられている。

「ではまずは花火を僕が言う通りに筒に入れてください。」

コートさんはそう言うと、テントの中心にある花型の筒に火薬球の一つを入れた。「この筒に入れるのが青色の花火です。色は棚ごとに分けてあります。」

よく見ると棚の上には紫やピンクといった色の印がある。私も早速取りかかることにした。

「それから花火は衝撃を与えると危険ですから、気をつけてくださいね。」

 コートさんは私の勝手なイメージだが、よく怒りそうな無愛想な職人という感じが全くしなかった。とても身長が高いのでそれが珍しくサーカスのパフォーマンスに出てるのも見たことがあるが本来は裏方で花火を作っている方が好きだという。あまり自分のことは話さなかったが、一緒にいて緊張しない話しやすい人だと思った。

 私はこの人がこのサーカス団にどんな覚悟を持って入っているのか聞いてみたくなった。

「あの、コートさんはどういった経緯でこのサーカス列車に乗ったんですか?」

3時間の作業が終わって、質問してみた。

 すると、コートさんの瞳に少し翳りが刺したのを感じた。

「ヨリさんも僕が爆弾魔だったという話は聞いているんですよね?」

「えっと…はい。」

「気にしていませんよ。本当のことですから。きっとあなたなら、話しても変なふうには受け止めないですよね。」

そう言うとコートさんは胸のポケットから多機能ナイフを取り出して、花火球に紛れていたスイカを切り出した。

 赤い果肉が臓物のように四方に飛び散った。

 


☆★☆

 


ミラーボールはその日は街の広場の噴水に座ると、食べやすいサイズに切ったスイカをもしゃもしゃと頬張っていた。

 「あ〜!スイカが育たない気候の地域で食べるスイカは美味しいな〜!」なんて独り言を言っていると、赤い果肉がぽろっと地面に溢れ落ちた。それを嘴の長い鳥がぱくっと啄んだ。

ミラーボールは絶望したような表情で一瞬固まってしまう。しかし取られないよう残りの部分を口に入れて種を鳥に渡そうとした。が、鳥は種には興味ないみたいにそっぽを向いた。

「なんでキミがここにいるんだ。」

鳥は答えない。

「そうか、またあの子に派遣されてきたんだね。こんな運命的な時に限って、ときめきの鳥とはね。」

 「ああ、怖がる必要はないんですよ。スイカは僕からの差し入れです。」

コートさんは多機能ナイフで綺麗に切ったスイカの一つを私に手渡した。スイカはみずみずしくて甘い味がした。

「僕も子供の頃は祭りの時期にはスイカを食べて空に咲く花を見ていました。そう、僕の世界では花火なんて呼ばなかった。」

「なんか私の世界のお祭りみたいですね。」

コートさんはふふっと笑った。

「僕が住んでいた世界は、人間も人間以外の生き物も誰も争わず平和に暮らしていました。みずべの都と僕達はそう呼んでいました。人々は人間以外の生き物と協力してエネルギーを使い、技術を発展させてきました。機会や魔法の契約がなくても、生命のあるものは皆自由に思いのままに万物を操ることができました。

 


 どんな生物が住んでいたか、ですか?きっとヨリさんのいた世界では架空の生き物と呼ばれているような翼の生えた馬や空を泳ぐ魚、妖怪と言われるような頭に角の生えた赤や青の肌の者に、大きな爬虫類のような者もいました。それから人間にも大きな人間から小さな人間までたくさんいました。

 その中でも僕は大きな人間と、中くらいの人間の間に生まれた子供でした。僕達は争いを好まず、平和に協力して暮らしていました。果実の同盟ができるまでは…。

 


 果実の同盟とは、ある爬虫類型の生物が食べろと促した木の実を食べたことにより、知恵を与えられた人間達から派生した団体です。僕達の世界には食べてはならないとされる木の実がありました。しかし、ある男女が蛇に諭されて食べてみたところ、今よりももっとたくさんの知識が手に入り、もっと強い能力が得られるようになったため何人かの人間もそれを食べるようになってしまったのです。

 それによって、知恵を分け与えたりする者もいたのですが、段々と果実を食べてから他人と自分の能力を比べるようになったり、未来が全て見えてしまい、不幸なことを考えるようになる者が出てきました。

 ですから、実を食べたことは罪としてその罪を贖うゲームを行う者もありました。先日ある儀式をする集落に行きましたよね。僕はびっくりしました。あのゲームを源流としたことをやっている世界があったのですから。

 ともかく誰もが幸せに暮らしているみずべの都にとって、不幸なことを考えてしまうのはとても不遜なことだったのでそういった不幸な者を救うために果実の同盟は誕生しました。

 僕はそういったことは何一つ知らずに生きていたのですが、緑の髪のあの子は別でした。」

「緑の髪?」

「ああ、巡ちゃんのことではないですよ。緑の髪のあの子とは僕の幼なじみです。彼女は興味があることならなんでもやってみたいという天真爛漫、自由奔放、快楽主義な女神のような人でした。だから誰よりも早くあの果実を見つけて食べてみたのです。僕の方が木に手が届くからと僕に取らせて。

 彼女は果実を一口食べると涙を溢しました。理由はずっと教えてくれなかったけれど、彼女はその瞬間この世界の仕組みが全てわかったとずっと言っていました。

 そして彼女はこの実はみんなが食べるべきだ、食べるものにとって得られる能力は違うけれど、ということを主張しました。それこそが、キミを一人にしない世界存続計画なのだ、と。

 僕にはその時彼女が言ったキミは僕以外の誰かに向けられたように思いました。それがなんだか今まで感じたことのない不安に変わり、僕も果実を食べました。

 僕には彼女が見えたものとは全く違う知識が頭に浮かびました。僕は空に咲く花を今よりももっと綺麗に作る技術が欲しかったのです。そして火薬を使ってもっと煌びやかな花が作れる知識を得ました。

 


僕は毎日火薬を打ち上げて周囲の人を笑顔にさせていましたが、緑の髪のあの子はあの日から全く別のことを考えているようでした。そしてある日、彼女が作ったのが果実の同盟だったのです。

 


 僕達は子供の頃からずっと遊んできたのになかなか会わなくなっていた時に、久しぶりに彼女から呼び出されました。

 彼女はこう言いました。

 ねえ、この世界を一回全部ぶっ壊しちゃおうよ!キミの火薬の技術なら文明一つ吹き飛ばすぐらいできるでしょ?

 そして新しい文明を作るんだ!

 僕には彼女の話の意味が分かりませんでした。そんなことをしてしまったら…。

 しかし、彼女はそれも全てわかっているみたいでした。だからなのかどこか悲しそうな顔をしていました。

 だけど、それでもそれこそが存続計画という一つの道であり、「キミ」を一人にしない手段なのだと言っていました。

 そこで僕は彼女の計画に協力することにしました。昔から当たり前のことでしたから。だけど、果実の同盟の連中はどうしようもないやつらばかりでした。

 自分の欲のことしか頭にないやつら、他人に嫉妬して常に蹴落としてやろうと考えているようなまるで邪悪な蛇に取り憑かれたようなやつらばかりでした。こんな奴らのために僕が頭を使うのは時間の無駄だからさっさと終わらせてしまおうと思いながらも、僕は爆弾の技術を彼らに教えていました。

 そうして計画が実行される当日、ある事件が起きました。緑の髪の彼女には双子の妹がいました。彼女は青林檎のような、そして妹は翡翠のような髪をしていました。そんな妹が行方不明になったのです。僕には果実の同盟の誰かが何か彼女に嫉妬してやったとしか思えませんでした。

 これについては彼女も動揺していました。そして妹を探しに行く、とどこか山奥の方へ行ってしまいました。それが彼女を見た最後です。

 僕はとてつもない怒りを感じて、果実の同盟を根絶やしにするためだけに爆弾のスイッチを押しました。そこからは、想像の通りです。

 

 しかし奴らは生き残る術も彼女から教わっていたのですね。しぶとく生き延びていたんです。彼女と妹がどこにいたのかも黙ったまま、奴らは同じように生き延びている僕を消そうとしました。

 新しい文明の歴史を作るのに僕の存在は邪魔だったようです。

 まさかよりによってアイビス家のお前だとはな、と一人が言っていました。僕は必死で逃げました。すると、僕の家の象徴だった病を治し、邪悪な蛇を飲み込む、嘴の長い鳥が飛んできました。僕を案内するように、鳥は山奥の方まで飛び僕もそれに続きました。みずべの都と呼ばれた街は爆破の衝撃で全て泥に塗れていました。

 そうして小高い丘、あの果実が生えた木があった場所に辿り着いた時に列車が止まっていたのです。

 


 そして、ミラーボール団長に出会いました。僕がとても驚いたのは、団長の性格に彼女の面影を感じたことです。

 僕は最初唯一生き残った同盟の人間以外の人間かと思いました。あの人は自分のエネルギーでこの列車を作り出したのではないか。僕が逃げる方法はこの列車に乗るしかないと思い、乗せてくれないか僕は頼みました。

 すると団長は条件を出しました。

 キミは多くの命を犠牲にしたことを忘れて自分だけが助かるためにそんなことを言っているのなら乗せられない。だけどキミがその罪を償って本当のみんなの幸いのためにキミの力を使うなら乗せてあげるよ。

 僕の答えは決まっていました。最初から僕がやりたかったのはそれだったからです。僕の全てをかけて本当のみんなの幸せのために僕はサーカスに協力することにしました。

 ミラーボール団長の正体はわからないままでしたが、あの人は僕が列車に乗った時に僕の目を見てこう言っていました。

 それでいい。それこそがキミを一人にしないための世界存続計画なんだ、と。まるで僕自身に語りかけるように。

 それからはずっと花火師としてサーカスで働いています。僕が本当にやりたかったのは、緑の髪の彼女にもっと綺麗な空に咲く花を見せたかっただけだったから。

 たくさんの人が僕の花火を見て感動しているのを見てある時、団長が言いました。

 キミがこれを続けてくれてボクは本当に嬉しいよ!

 その笑顔は緑の髪のあの子をどこか思わせる笑顔でした。」

コートさんは話し終えると、家の象徴だという鳥がかかれた花火の球を見せた。

「この鳥は…!!」

「あれ、知ってますか?」

「私の地元で天然記念物になっている鳥ですよ!!」

「僕の文明がある頃には世界中に飛んでいたのですが、やはり数が少なくなっているんですね。」

私はどうしてもわからなかったことを聞いた。

「どうして緑の髪の人が世界を壊そうなんて言った時に協力したんですか?」

コートさんはくすっと笑った。

「よくあることですよ。愛していたからです。」

愛して…。私の身近に今までここまで深く愛という言葉を話す人がいただろうか。本当にその人のために何かをすることが本当のみんなの幸せに繋がるようなそんなことができたら素敵だと思う。ただの自己満足ではなく誰かの心にいつまでも感動できる体験をさせることに貢献できたら、今よりもっと強い自分になれるだろうか。

 するとテント小屋の幕が開けられ、ミラーボール団長が入ってきた。なんと肩にはあの鳥、トキが止まっている。

アイビス!!そろそろショーが始まる。開始の花火を上げてもらえる?それから、ちょっとした報告が。蜂の本からコウモリの本に変わったんだ。」

ミラーボール団長はまたわけのわからないことを言っている。コートさんは気にしてないみたいで花火を上げる合図をした。

 

 青や紫、緑の鮮やかな花火が空に上がっていき、サーカス小屋の頂上で人々に注目させるように開花した。