YAYA

小説を書く用のブログです。いつか出発することを目標にしています。

Menagerie 中編

 ピエロ達の中心でなんとか教えてもらった振りを踊っていると、突然空間が揺れて傾き出した。そういえばここは電車の中だった。動きに合わせて列車の前方部分に滑っていく。

「これは、電車が止まったな。」

マッシーが呟いて練習場のドアを開けて外に出た。サーカスのみんなも同じように外へ出て行く。するとそこは、砂漠の真ん中だった。

 


 焼けつくような太陽とどこまでも続く砂の大地。よく見るとサーカス列車の姿は既になく、駅や線路といったものも見当たらなかった。代わりに大きなオアシスと、幾つものテントが張られていた。テントはみんなで設置しているものもある。

 団長の姿を探すと、暑そうに遠くを見ていた。頭のシルクハットをターバンに変えて衣装も砂漠の気候にあったようなアラビアンな格好に変わっていた。

「あの、電車は?」

「うーん、そのオアシスの中じゃない?」

しかし泉を覗いてみても透き通るブルーではあるが、中には何も見えない。

「あの列車は映るものと映るものを移動してるんだ。夜だと別世界の月と月を移動するんだけどね。もし危険だと感じたらこれを持って映るものにでも飛び込んだらいいよ。」

ミラーボール団長が手渡したのは鍵だった。表面に蛇のデザインがしてある。

「オアシスがあったのはラッキーだったね。今日はここでひとまず休もう!それから、目に砂が入ったら大変だからみんなターバンを巻くかゴーグルをしておくのを忘れずにね!」

ミラーボール団長が声を張り上げ、みんなそれぞれの練習を始める。マッシーが「ここはやりがいのある気候だ。」と言うと、彼の袖や靴や服のあらゆるところからヘビが這って出てきた。すごい。

 でも、私は?この砂漠の真ん中で私に出来ることなんてあるのだろうか?

「おい。」

後ろから声がして振り返るとトムさんが私の服の裾を掴んで話があるという合図をした。

 

 オアシスの隣にある木の陰にそのテントがある。中に入ると冷凍庫のように寒かった。

「ここは不思議な力でどんな気候でもアイスが保存できるようになってんだ。ここのアイスを味ごとに仕分けといてくれ。」

トムさんは葉巻を咥えて外で待っていた。「お前は側に誰もいない方が集中できそうだからな。」

確かにそうだ。だけど、テントの中は寒すぎる。事前に防寒着を借りられるか聞くべきだった。するとテントのチャックが開き、私と同じサイズのコートが置かれていた。

 まさかトムさんが?怖そうと勝手に思ってたけどいい人なのかも。およそ1時間かけてアイスの味を箱ごとに分けると外に出た。氷のように冷たくなった肌に温かい日差しがかかり一気に救われた気持ちになる。地面の砂も青いオアシスも途端に美しいものに見えた。

 トムさんが金縁のサングラスをしてテントの側に寝転がっている。私が出てきたのに気づくと、サングラスをずらしてこう言った。

「これでお前は砂漠に文句なんかなくなるだろ?」

器用な伝え方ではないかもしれないがトムさんなりに私が不安にならないようにしてくれたのかもしれない。

 


 夜になりみんなそれぞれのテントの中に戻っていく。空には一つだけ目を引く一番星が光っていた。私はテントには戻らず、ずっとトムさんと並んで景色を見ていた。トムさんは特に何も言わなかったが、それが不思議と安心できた。

 しかし一番星が出てきた時にずっと黙っていたトムさんは口を開いた。

「アイツと会った時もあんなふうに一番星が見え始めた時だな。」

「アイツって?」

「ミラーボールだよ。俺達は林檎の木の下で会ったんだ。」

トムさんは思い出すように話を続けた。私に話を聞いて欲しいというより、自分自身が話してしまいたいような感じだった。

「俺は首を括ろうとしたんだ。」

「…え。」

「産まれた時から俺には金があった。しかも俺の見た目がこうだから母親は俺に莫大な遺産を残していた。だから親が死んでからも、俺はあまり不自由なく暮らせたんだ。だが俺の遺産を狙っている奴らはたくさん現れた。その度ごとにうまく切り抜けたが、俺は誰も信じられなくなった。俺が本当に欲しかったのは金じゃねぇ。やりがいのある仕事だった。」

「それが、サーカスの仕事?」

「ある時俺は金なんて誰にでもくれてやるからこんな人生もう終わりにしてやろうと住んでいる家の近くにあった林檎の木の下に行ったんだ。その日はすごくイライラしてたんだろう。全てなくなってしまえという勢いで家の鏡という鏡を割ってやった。俺は自分の姿なんて大嫌いだったからな。気が済んだところで縄とバケツを持って自分が一番届きそうな枝の下まで歩いて行った。そしたら急に声がしたんだ。何をしてるのかと。

 


 振り返るとミラーボールが立っていた。

 


 あんな妙な奴は今まで見たことがねぇ。だが、俺はずっと前にそいつとどこかで会ったことがある気がした。俺はほっといてくれとアイツが去るような態度を取ったが、アイツはこう答えたんだ。ボクのサーカスに入ってよ、とな。なるほど確かにアイツの格好はサーカスのリングマスター(団長)みたいだからな。ただ俺はすぐにはイエスと答えなかった。俺を見世物にするためにサーカスに誘う奴なんて何人もいたからな。ここで立ち去らないなら顔を噛みちぎってやるぞと脅しもしたがアイツはなんと俺の目線にしゃがむと頭を下げ出した。このとおりだ、今はまだメンバーがいない、だからトムだけが頼りだのと俺が名乗ってもねぇ俺の名前を出して来やがった。丁度俺が空を見上げると一番星が光っていた。ヤツの目を見ると同じような一番星の輝きをしていると感じた。だから俺はちょっとした気まぐれであの列車に乗っちまったってワケだよ。」

トムさんは口から煙を吐き出す。

「それでも最初っから信用があったワケじゃないぜ。初めの頃俺達には絆が全くなかったからな。団員はまだ俺とアイツだけだったし俺もこの列車のことを理解するのに時間がかかったからな。だが団員を集めるために世界から世界へ移動するうちに俺達はちょっとずつ意思の疎通が取れるようになった。アイツは俺を笑い者にするために団員にしたんじゃないことがわかったのさ。それでオレもアイツを信じることにしたまでだ。それにアイツは最初に会った時から感じていたように俺にはずっと前に会っていてずっと俺を探していたような気がするんだからな。」

「それは誰なんですか?」

 空にはやがて目がいくらあっても足りないぐらいの星々が瞬いていた。

「さあなぁ。ずっと昔からのダチのような気もするし、もしかしたらちょっとは、母親みたいって思ったかもなぁ。なんてアイツに絶対言うなよ?」

トムさんはちょっと焦ったように私を見た。トムさんとミラーボール団長は不思議な絆で結ばれているんだろうなあ。

 空の星が光り過ぎていて、トムさんの目も潤んでいるように見える。

「もし願いが一つ叶うとしたら、母ちゃんの膝枕でまた眠りてえなあ。」トムさんがぽつりと溢した。

「…私のでよかったらどうぞ。」

「ああ?」

自分でも何を言ってるのかわからなかった。ただ今は星空の下の奇跡が隣にいる誰かの願いを叶えたいと感じさせたのかもしれない。

「じゃ、じゃあ今日だけはお邪魔するぜ。ただそのかわり、ヨリ、てめえ…」

「な、何ですか?」

「俺にさん付けすんのやめろや。もう、仲間なんだからよ。」

砂漠の中の小さくて強い彼はそう言って私の膝の中で眠ってしまった。

 朝が来て、また日差しが強くなると遠くから鈴の音が何層にも重なって響いてきた。みると10匹程のラクダの列にターバンを巻いて豪華な荷物を持った人間たちが乗っている。

「おっと、キャラバンだ!」

 ミラーボール団長はいきいきとテントから出て来るとこちらに向かってくるキャラバンに向かい手を振った。

「おーーーい!すみませーーん!!」

先頭の人間が団長を見つけるとキャラバンは団長の前で止まり、尋ねた。

「なんだお前たちは?」

「ボク達はサーカス団ですよ。ここらにサーカスができそうな国がないか探してるんですが、みなさんはどちらに行かれるつもりで?」

「ふん。見世物小屋か。俺達はここから東の方にあるハメキト国へ行くつもりだ。もう今日には着くだろう。」

ミラーボール団長は目をキラキラさせて先頭の男の手を掴んだ。「ボク達も一緒に行っていいですか!!」

あんな子供みたいな喜び方は団長の才能だろう。あの人が頼み事をしてきて断る気になる人はいないんじゃないか。キャラバンの男も放っておけなくなったのか一緒に来るといい、なんならラクダの背中に乗っていくかなどと気を回している。そこに、国の名前を聞いて明らかに様子が変わった者がいた。

「ハメキト、だと?」

 蛇使いでありダンサーのマージャ・フォッシーことマッシーだった。

 

 

 

 団長の交渉でキャラバンのラクダに乗せてもらうことになった私達は熱い日照りの中を進んで行った。何キロかすると交代でラクダに乗り降りして移動していく。

 出発する前にオアシスから大量に水を汲んできたので喉が渇くと水を飲んだ。ミラーボール団長は何やら1人でラクダに声をかけたりしていたが、水は一滴も飲まなかった。あれだけ喋っていて喉が渇かないのだろうか。

 マッシーはあれから一言も口を開くことは無かった。

 夕方、空がピンク色になりだした時、砂漠の中に何やら光輝く球のようなものが見えてきた。あれはアラビア風の画像で見たことがある。段々と近づいてきて私の予想は確信に変わった。宮殿に近づいてきたのだ。

 煌びやかな都市がどんどんと近くなってくる。布の衣装を着た人々が増えてくる。街の人々は突然やってきた集団に何事かと驚いているしやはりミカやトムはその中でも目を引くようだ。まあ、サーカスは目を引く人ばかりだけど。

 私はと言えば格好も男っぽいものにしていたし(女性は売られたりする可能性があるとか)ターバンで深く顔を隠していたのでそこまで目立つことはなかった。

 キャラバン隊はラクダを止めると王国の入り口で市場をやる取引をした。ミラーボール団長も取引しようとすると、

「サーカスか?そんなもんやるならハメキト王に直接取引することだな。」

「えー?」

「ハメキト王は偉大なるマジシャンなんだよ。だから見世物やマジックの類いは国王に認めてもらわんとこの国で発表はできないんだよ。」

 

 ということで私達は結構すぐに宮殿に通された。団員が多いので中庭で待っているようにという国王からの指示があった。中庭には、ジャスミンやラベンダー、ハイビスカスやブーゲンビリアといった花々が咲き誇り大理石でできた孔雀の噴水が真ん中に聳えていた。

「すると、そなた達が我が国でサーカスをやりたいという者達だな?」

声がして振り返るとハメキト王らしき人物が歩み寄ってきた。赤、黄、緑の信号機カラーの衣装に赤いターバン。真ん中には赤い羽と金色の宝石が付いている。右腕には蛇がとぐろを巻いた腕輪がはめられている。国王というだけあってこれまでの道で会ったどの人よりも高級そうな装いだった。結構な老人を想像していたのだが、ハメキト王は思っていたよりも若かった。10代、20代ではないだろうが例えばトムやマッシーと同じくらいには…。

「私がハメキト王だ。それで、何日くらい滞在するつもりかね?」

ハメキト王は怪訝そうにミラーボール団長の顔を覗く。

「1週間くらい。開催は最後の3日間。それまではショーのプロモーションだったりちょっとした店をやるよ。」

「ふーん?言っておくが私よりも優れたショーの出来るヤツなどおらんぞ。」

ミラーボール団長はクスッと笑う。

「それは、どうでしょうね。キミが世界一ならボクは宇宙一のショーが出来るから。」

団長は以外、でもないが自信がかなりあることを知った。2人の目線から火花が迸る。ハメキト王は数秒団長のことを睨んだ後、ふと後ろの方に目をやった。

「おや?見たことのある顔がいると思ったら、お前じゃないか。マージャ・フォッシー。」

マッシーは気づかれたくなかったような反応をしたがすぐに笑顔になると「久しぶりだな。ハメキト、今はハメキト王と呼ぶべきなのかな?」と言った。

 ハメキト王は面白くなさそうな表情になった。

「お前はある日突然いなくなったと思っていたが、まさかサーカスにいるとはな。」

どうやら2人は知り合いだったらしい。ハメキト王はまたミラーボール団長を見るとこう告げた。

「まあいい。マッシーがいるのなら確かに優れたサーカスなのだろう。この宮殿に泊まると良い。ただし、城の裏の砂漠にだけは絶対に行かないように。」

ハメキト王は自室に帰っていった。右腕の蛇がぼんやりと赤く光っているような気がした。

 次の日から3日間の公演に向けての練習が始まった。私の出番が来るのかは未定だが、マッシーは念の為にとダンスの練習をそのまま続けるようにと言った。

 ピエロの1人、ハッピーが耳打ちしてきた。

「しかしこの国の王がマッシーの知り合いだなんてね。何があったのか聞いてきてよ。」

ハッピーは顔の筋肉が吊りそうなくらいにニヤニヤしてる。眩しそうな猫みたいな顔だ。

「人の秘密を知ろうだなんて最っ低だな。」ラビットがちょっと呆れた顔をする。

「そんなこと言ってあんたも知りたいんじゃないの〜?」

ハッピーがラビットの髪の毛をわしゃわしゃと掻き回す。爆発したような癖毛がぴょこぴょこと跳ねる。

「そんなの、知りたいに決まってるっしょ〜!!」

ラビットが跳ね回る。なんなんだ、こいつら。私の目の前にトランプのジョーカーが一枚現れる。見るとピエロのカーニバルがいた。

「ピエロの仕事は徹底的にジョーク。存在そのものがジョークなんだよ?」高くて子供みたいな笑い声でカーニバルは笑い転げる。ちゃんと見たことはないがこのピエロ達とミラーボール団長が会話したらどうなるんだろう。

 マッシーは練習場の端で蛇達と柔軟な動きを模索していた。とても話しかけて良い状況には見えない。

 私は別に彼とハメキト王の関係について知りたいとは思わない。だけど知り合いがいることでやり辛くなってないといいなとは思った。

「みんな!!ショーの時間だ!!」

扉が開いてミラーボール団長が現れる。

「でも今日はまだ公演はやらないんでしょ?」

と聞いたが団長は腕を広げてこう言った。

「最初は公演のプロモーション。大規模なメナジェリー(動物展示会)と行こうじゃないか。」

ミラーボール団長の言葉でみんなは思い思いの準備に取り掛かる。するとミラーボール団長はこそっと私の耳元で話してきた。

「ハメキト王は裏の城の砂漠には絶対行くなって言ってたよね。でも、絶対行くなって言われるような場所、見てみたくない?」

サーカスの人はつくづく耳打ちが好きみたいだ。

 


 私が街の広場に着く頃にはたくさんの動物達がケージに入ったまま並んでいた。こんなにたくさんの動物、オアシスにいた時にはいなかったのにどうやって用意したのだろう。

 たぶん鏡の中に列車を止めておいて必要な時に連れ出したのだろうが。私は段々とみんなの話を聞いていくうちにこのサーカスの列車について確信していることがあった。

 列車は鏡と鏡、水や映るものの間を移動している。普通の人にはそれが見えないが誰かが鏡やガラスを割った瞬間、それは列車がやってくる合図として特定の者の前に現れるのだ。オアシスに辿り着いたのはどうやってかわからないが、宮殿に徒歩で行けなかったのはオアシスの水から次に映るものへの距離が砂漠の中ではあまり無かったからではないか。

 ただ、動物達を取り出したのだとしたら。もしかしたら列車はミラーボール団長の行く方向へ動いているのかもしれない。直接誰かに聞いたわけではないあくまで私の仮定だが。

 広場にはラクダや象、キリンやフラミンゴ、虎から73匹の白い猿、53匹のヒツジ等がいた。

「ヒツジはボクの大切な友達からもらったんだ。そういえば今頃彼は何してるんだろうなあ。」

 ミラーボール団長はわけのわからない独り言をぶつぶつ言っていた。

 


 動物の展示だけでなくいくつかの屋台も並べられている。巡やピエロ達は景品付きのゲームを担当していて、子供達は次々と好きな景品をゲットしていく。

 私は何をしたらいいだろうと彷徨っているとトムが手招きしていた。アイスキャンディーの屋台だ。

「お前はここでアイスを売るんだよ。」

そう言うとトムは屋台の上にある樽の上に胡座をかいた。樽の上に不機嫌そうな小人が座っているというのはそれだけで結構目立つので街の者達は何事かと集まってくる。するとトムはどこからかアコーディオンをさっと取り出し、樽の上でタップダンスを始めた。

 大衆はその出来栄えに喝采を送る。子供達も楽しそうに見入っている。トムはいつもの仏頂面ではなく楽しそうな笑顔で私を振り返った。

「何やってんだ!ヨリも早く踊るんだよ!」

私は出鱈目だが思うままに踊り始めた。動物達も楽しんでいるように見える。そのまま屋台の前には行列ができ始め、みんな次々にアイスを選んでいく。日差しが強いこの国ではアイスはよく売れた。しかし、お代は先に団長に払っているとかでお金は取らなかった。

 1人の少女がやってきた時私はその子が選んだアイスを取ってあげた。まだ3歳ぐらいだろう。アイスを渡そうとするとその子は私にむけて手を伸ばしてきた。

 その時の不思議な感覚が私には忘れられない。今まで私は人から拒まれるような体験しかしてこなかった。だが目の前のこの子は私がどんな人間かなんて関係ない。ただこの人は自分にアイスをくれる人なんだと信じて私を求めてくる。

 少女はアイスを受け取ると本当に美味しいものなんだと見る側にも感じさせる笑顔でそれを頬張った。

「ほんの一瞬の幸せが誰かにとって最大限の幸せになる。これが仕事のやりがいってものだ。何をするにしてもな。これでお前もわかっただろ?」

トムが私に話しながらアイスを齧っていた。

 


 ☆☆☆

 


サーカスの団長、ミラーボールは動物や屋台を楽しむ人々を嬉しそうに眺めていた。これこそがボクのモチベーションだと言わんばかりに。

 すると国の入り口で門番をしていた男がミラーボールに近づいてきた。声を顰めてこう話す。

「しかし、よくハメキト王から許可を貰ったな。今までのやつらなんて無理だった。」

「へー?」

「この街ではマジックや見世物、さらには歌や踊りなんてのは王に認められない限りやっちゃいけねぇんだ。認められるやつだって城の中にいる。」

「城の中?」

「この国でそういった芸術をやりに王に許可を取って帰ってきたやつはいないってことだよ。」

それだけ言うと男は行ってしまった。

 ミラーボールはまるで自分は大丈夫とでも言うように笑っていたが、背後のワゴンにどこからかやってきた赤いインコが止まると一瞬無表情になった。だがすぐ笑顔になると、

「もしかしてハメキト王の噂にはキミが絡んでいるのかな?」

インコは何も答えずにミラーボールの頭を突いてきた。どうやら威嚇しているようだ。

「わー!!ごめん!!ごめんって!キミじゃないんだね?」

鳥は何も言わない。ミラーボールは腕を組んで考えるポーズをする。

「それじゃ、何とかしなくちゃいけないってことだね。」

ミラーボールは楽しみを見つけた子供のような声で言った。鳥は今度も何も言わずワゴンの中にあったアイスを嘴と足で掴めるだけ掴むと遠くに飛んで行ってしまった。

「全く、自分の欲しいものだけはもらえるだけもらっていくところは相変わらず変わらないなあ。」

太陽に目掛けて飛んでいくインコを見やりながらミラーボールはため息をついた。